「イクメン」という言葉も定着し、最近は、父親の育児参加が前向きに語られる時代になってきました。政府もイクメンプロジェクトや「さんきゅうパパ プロジェクト」など、父親の就労環境の改善なども含めた、積極的な育児参加のためのとりくみに力を入れています。
しかし、まだまだ、日本の育児は、母親がメインでしているケースが多いのが現状のようです。少子化対策や女性が輝く社会へのとりくみも進み、男女の役割や意識も大きく変わっていく現在。この中で、どうするか。正解がひとつでない社会に協働して臨むアクティブ・ラーニング世代の子どもたちを抱えるお父さん・お母さんは、自分たちの課題に向かい合って共に解決していくための、対話や行動、選択が、できているでしょうか。
「女性がメインで行い、男性が手伝う」日本の子育て
政府が毎年国会に提出している「少子化社会対策白書」の平成28年度版が、公表されました。少子化にまつわる現状や、意識調査、とりくみなどが、まとめられたものです。
日本では、女性が出産後に就業継続をするのが難しく、子育て世代の男性は長時間労働に勤しんでいること、子どもをもつ男性の家事・育児時間は先進国の中でも最低水準であること、希望する子どもの数は減っていて、結婚や出産への金銭的な不安が大きいこと、そして、晩婚化・晩産化も未婚化・非婚化も進行していることなどが、データによって示される結果に。
働くことを希望する女性が子育てのために働けない様子や、男性が子育てに関わる時間の短い家庭では第二子の出産が少ない様子なども浮き彫りになっています。
PHOTO BY Bradley Gordon
日本政府は、「すべての女性が輝く社会づくり」を推進。5月26日・27日に開催されたG7伊勢志摩サミットでも、主要議題のひとつに「女性」がありました。家事労働の分担についても、「無償の介護や家事労働における男女間のより平等な分担を推奨(「仮訳」)」と成果文書で触れられています。
労働人口が減り、グローバル化が進む今後の日本社会では、働く人材としての女性や、女性ならではの能力にも、大きな期待がかかっています。子育てと仕事の両立支援をし、女性が活用される社会をつくり、少子化も解消していきたいのが今の日本の動きです。
すれ違っていませんか? 意識のギャップに気づけたら・・・
では、今家庭で子育てをしている男性と女性は、お互いが納得した上で、育児を「平等」にしたり「女性がメイン」にしたりして、暮らしているのでしょうか。
たとえば、「ふたりで育児を分担しよう」と言い合いながら、「“父親の育児分担”イコール“妻の手伝い・手助け”」と悪気なく考えている人もいるかもしれません。
男性側が「育児を手伝っている」姿勢では、パートナー女性には、違和感が。そして、男性にとっては忙しさや疲れを抱えるなかで努力や思いやりをもってのことなのに、素直に感謝をしてもらえない・・・。この根底にあるのは、“意識のギャップ”の問題ですが、そのすれ違いのことまで対話が行き着く前に、こじれた状況になってしまいそうです。
PHOTO BY Donnie Ray Jones
「子育て女性が “孤立感” を抱きやすいメカニズム」知っていますか?
今年に入って放映された、「ママたちが非常事態!?~最新科学で迫るニッポンの子育て~(NHKスペシャル)」は、反響も大きく、すぐに続編が作られました。子育てをする女性の「孤立感」を科学的に説明したテレビ番組です。
女性が育児をしながら辛くなることには、人類の生物としての歴史や、脳などの身体機能も関係しているのだといいます。しかし、ここでもそれを知らない男女はすれ違いがちで、たった今この瞬間にも、日々の子育てで辛い感情とたたかっている女性や、それに戸惑っている男性が、日本のあちこちにいるのではないでしょうか。
「子育て中の女性が孤独なつらさを感じがち」ということ。その事実やメカニズムを男性も女性も知っていると、ふたりの関係も子育ての環境も、変わっていくように思えます。「その気持ちへの対応」が課題だということが男性側にもわかりやすく、わかってもらえれば女性がいっそう孤独感を募らせることも軽減するのではないでしょうか。
男性「女性の怒りを感じる」。女性「気持ちが理解されないストレス」
「ママが非常事態」なら、パパも同じはず。女性が抱えているらしい不満の根拠もわからずに、仕事や社会、自分の苛立ちとの板挟みになっているかもしれない、男性たちの状況も気になります。
実際、NHKは6月に入ってからも「妻が夫にキレるわけ ~2800人の声”が語る現代夫婦考~(クローズアップ現代)」を放映。「番組で実施した2800人の調査では夫の47%が「妻の怒り」を感じ、妻の8割以上が夫に「自分の気持ちが理解されていないストレス」を感じている実態が見えてきた」として、「すれ違い」の現状を伝えています。
日本中の家庭に蔓延しているかもしれない、この「すれ違い」は、今や社会問題と言えるほどのものかもしれません。
上の図は、その番組内容を、「スケッチ・ノーティング」という会議などの内容をリアルタイムで可視化する手法を活かしてグラフィックにしたもの。(NHK「クローズアップ現代」サイトより)。この「すれ違い」を解消する鍵は、やはり男女の「脳のしくみの違い」を見ていくことにもありそうです。
アクティブ・ラーニング時代。知ってわかりあうこと、対話し行動していくことを、家庭でも。
2020年には「男性の配偶者の出産直後の休暇取得率80%※」になることが、今の政府の目標(※「少子化社会対策大綱」(平成27年3月20日閣議決定)の数値目標)です。この動きにむけてのなんらかの思考や行動をしていると人とそうではない人の意識や暮らしにも、大きな格差が生まれていくように思います。
とはいえ、育児の事情は人によって違うものですし、「子育てを、誰がどのようにしたらよいか」という問いに、唯一の正しい答えはありません。アクティブ・ラーニングで育つこれからの子どもたちが向かい合っていくのも、正解がひとつでない問題。自分と価値観が違う相手とも問題を解決していく学びもしていきます。
PHOTO BY Donnie Ray Jones
お互いを知る、理解してわかる、対話して行動し、よりよい形にしていく・・・。育児や、そこから生じるすれ違いの問題などに、大人たちがどう向き合うか。家庭でのありかたを真剣に考えることも、子どもたちの育ちに関わる、大切な問題ではないかと思います。
(文・仙波千恵子)