「人生100年時代」の大人の“学び直し”とは? 「人づくり革命」をかかげる安倍内閣が今月開いた「第5回人生100年時代構想会議」(平成30年2月8日)の議題は、「大学改革」でした。いま、日本の大学は、子どもたちの将来だけでなく、親世代の人生にも関わるものになろうとしているようです。今回は、少子化時代に生き残りを図る大学の変化について、教育ジャーナリストの後藤健夫氏の記事をお届けします。
「人生100年時代」における大学のミッションとは?
教育ジャーナリスト 後藤健夫
少子化で、大学生の学習意欲や学習時間が減っている
このところ続いている少子化は、高校までの教育における“競争”を乏しくしている。この“競争”のなさが向上心を呼び起こさず、学力中下位層の学習意欲の減退、学習時間の減少につながってしまっている。
また、大学進学は、学力や学習意欲よりも家計によってハードルが高くなりがちであるが、その一方で、定員割れをする大学もある。現在の日本では、大学を選ばなければ、また経済的な要件さえクリアできれば、誰でも大学進学を果たすことができる状況だ。さらに、就職も団塊世代の定年退職や少子化による労働者不足により、選ばなければ職を得ることはできる。現在、医学部とその他一部を除き、大学での学習に主体的である学生は少ないのではないだろうか。
大学の成績には、「やり抜く力」や学習意欲が反映される
このように、少子化における大学進学へのインパクトは非常に大きい。学生は、学ぶ内容に面白さや学ぶ意義を感じなければ自ら学ぼうとはせず、トコロテン方式で卒業に向けて押し出されるのを待つだけである。
ある大学の調査によると、大学での成績は高校での成績に正の相関があり、学習に取り組む意欲が成績に反映されるという。さらに、GRIT と呼ばれる“やり抜く力”も成績に反映されるそうだ。
少子化時代に大学が生き残り優秀な学生を育てていくには、若者たちが学ぶ意義を見出し、自ら学びたいと思うような内容の教育を創出していくことが求められていると言えるだろう。
AIの進化は、“職業の寿命”を短縮。大学に2回3回と通う時代に
そして、いま、この少子化に加えて、「人生100年時代」として、人生が二毛作、三毛作だとも言われる時代である。大学にはこれから2回、3回と通う時代になるとも言われる。
この先、人工知能(AI)の進化により職業の寿命が短くなると考えられており、新しい職業のための技術や知識を新たに獲得することも、求められるだろう。大学は高校新卒、あるいはそれに近い若者のみを対象とせず、社会に一度出た人たちの再教育の場となる。
非正規雇用者・高齢者・主婦主夫・引きこもり・・・再教育の場
こうした社会人の学び直しのためのリカレント教育は就職氷河期以降に大学を卒業した者らにも必要だと言われている。なぜならば不況により正規採用されず、非正規で働く者が少なくないからだ。大学は、氷河期以降に非正規雇用での労働をよぎなくされた世代のスキルアップの場としても期待されている。
少子化は、労働生産人口を減少させ、それに対応する生産力を確保するために、高齢者、主婦主夫や引きこもりの若者らにも生産に参加することを促すことになっていく。ここにも大学の役割がある。
「学び方を学ぶ」教育や「新しい教養」で、自ら新しい教育の場に
こうした中で、これからの大学教育は「学び方を学ぶ」ことをより強く求められる。学び方を学んでおけば新しい技術や職業にいち早く対応できるからだ。大学で学ぶことによって身につく教養のありようも、社会の発達や人工知能の発達によって変貌を遂げるかもしれない。
例えば、慶應義塾大学が開設した総合政策学部、環境情報学部においては、人工言語としての英語、自然言語としてのプログラミングを習得して問題発見・解決能力を獲得することを目指した。これも新しい教養だろう。
教養には、時代の流れにも流されないものもあれば、時代とともに変貌を遂げるものもある。人生100年時代にふさわしい教養教育を開発するのも大学教育のミッションだ。
少子化により大学の統廃合が叫ばれる時代に、大学は自ら新しい教育の場として生まれ変わるべきであろう。これこそが大学の生き残り策である。
後藤 健夫 (教育ジャーナリスト) 大学コンサルタント。1961年生まれ。南山大学 経済学部 卒業後、河合塾に就職。その後、独立して、有名大学等のAO入試の開発、入試分析・設計、情報センター設立等をコンサルティング。早稲田大学法科大学院設立に参加。元東京工科大学広報課長、入試課長。現在「大学ジャーナル」編集委員、森上教育研究所 アソシエイトコンサルタント、Pearson Japan K.K 高等教育部門 顧問ほか。『セオリー・オブ・ナレッジ 世界が認めた「知の理論」』(ピアソン・ジャパン)を企画・構成・編集。「メディアラクト」アドバイザー。