IT化が進み、情報化社会と言われる現代。日本でも、プログラミング教育が、2020年より小学校から必修化されることになりました。文部科学省も、子ども達の発達段階に応じた事例を集めて授業のための参考資料を公表しており、子どもための新しいプログラミング教育のサービスも続々と開発されています。習いごととしてプログラミング教室に参加する子どもも増えてきている状態です。
そんななか、6月15日、中高生がオンラインで楽しくプログラミングが学べる新しいWEBサイトがリリースされました。プログラミング教育がもたらすものは何なのか。記者会見や体験授業の様子を、お伝えします。
「MOZER」リリースを発表する、ライフイズテックの代表取締役CEO・水野雄介氏。
知識ゼロからWEBサイトを作るところまでオンラインで学べる体験版
今回リリースされたのは、ライフイズテック株式会社の、「MOZER」(マザー)。主に中高生向けのプラグラミングが学べる、SNSも併設されたゲームのようなサイト。現在は、Webデザイン学習コース体験版『デイジーと秘密のメッセージ』」が公開されており、興味のある人は無料で試すことができます。
開発を担当した、教育ライフイズテックの取締役CTO・橋本善久氏。
まるでゲームをするように、仮想の街で自分が選んだキャラクター(アバター)に名前をつけて主人公になって、登場人物たちとプログラミングを覚えていく構成で、実際に入力したり、クイズに答えて知識を覚えたりしながら、学びを進めていきます。日英の2言語に対応し、世界中の人たちが、誰でも、いつでも、どこでも、夢中になってプログラミングを学べるシステムをめざしました。
「デイジーと秘密のメッセージ」をプレイしてもらう事で、小中高生から大人まで、知識ゼロから誰でもHTML/CSSのホームページ作りを楽しく身につけてもらうことができます。無料体験版とは言え、書籍の入門書の範囲と質をゆうに超える内容です」(ライフイズテック取締役CTO橋本善久氏)
キャラクターの動きなど工夫がこらされ、退屈しがち、難解とも感じがちなプログラミングを、本格的に学ぶ仕様。パン屋さんのホームページを作っていく設定。
個性に合わせる、仲間がいる、楽しい、の3つでモチベーション維持
今秋公開予定のSNSで、中高生同士が学び合い教えあうなどのコミュニケーションができる場も用意されているのも大きな特徴。これまで実際に顔を合わせる形でプログラミング教育を提供してきたライフイズテックはコミュニケーションも重視しており、大人のコミュニティとは分けるなどの配慮や、ネット上のトラブルが起きないような工夫にも注力していくとのこと。
SNSのイメージ。都市の生徒も、地方の生徒も、海外の生徒も参加できる。
生徒に学習を続けてもらうため、このプログラムには、3つのポイントがあると言います。それは、ひとりひとりに合わせた個別の対応ができること、仲間とのコミュニティを作ること、そして、楽しさ。これが、一般ではひとりで学ぼうとしても難しく続かない人も多いプログラミング学習に対して、中高生のモチベーション維持のために、大事な要素だということです。実際に、「MOZAR」を使うとプログラミングの学習のスピードがあがるという成果も出ているそうです。
プログラミングができるようになると?「幸せになる」
「中高生ひとりひとりの可能性を最大限伸ばす」と、水野氏は言葉を繰り返していました。
プログラミングを学ぶ利点はいくつかあるとされています。たとえば、IT時代に必要不可欠な知識が得られるというほかにも、英語が使われているので英語学習になるとか、論理や哲学を学ぶとか、粘り強さや集中力を養えるとか、などなど・・・。
では、水野氏は、プログラミング教育に、どのような可能性があると考えているのでしょうか。
ライフイズテックのキャンプ「Life is Tech ! 」では、20の大学を会場にこれまでに4000人の参加者を集め、47%のリピート率を誇ります。そして、参加者によって、合わせて100のアプリが作られ、ダウンロード総数は300.000回にものぼるとのこと。
これは、中高生たちが、「こんなアプリがあったら」と親や祖父母などの家族や自分のために考えてモノをつくり、社会とつながり、人の役にたつことなのだと水野氏は語ります。プログラミングができるようになると、人を幸せにすることができて、それにより、自分も幸せになれる。オンラインで受講できるようにすることで地域や経済の格差も超えたいと語る水野氏は、非常勤教師として開成高校で物理を教えていたこともあり、教育への想いが、この事業につながっているそうです。
個性にあわせた進みで、集中して取り組む生徒たち
この日は、広尾学園(東京都港区)の生徒たちが、この体験版『デイジーと秘密のメッセージ』を体験しました。
MOZERを体験する、広尾学園の生徒たち。
もともと知識もあってカタカタとスムーズにキーボードを打っていく生徒もいれば、画面に出るキャラクターのセリフを熟読しながらひとつひとつキーを打っていく生徒もいます。そして、その全員が集中してとりくみ、一人一台のパソコンに向かって、それぞれが自分のペースで学んでいました。
開発を担当した橋本氏は、セガのソニックや、スクエニのFFなど、ゲーム制作やゲームエンジン制作を最先端でしてきた人材。教育コンテンツでよく言われる「子どもだまし」に見えないキャラクターや進行など、子ども達をひきつけるゲームのような作りを実現することができたのもうなずけます。
黒板を使って教える「先生」が、いらない授業
この授業では、従来の学校にいるような「先生」が黒板の前で教える必要がほとんどないのが印象的でした。これからの時代、教師の役割は変わるとも言われていますが、この授業で必要なのは、専門知識をもって子どもたちとコミュニケーションができる進行役と、フォローのスタッフです。生徒全員を注目させ、みなにノートを取らせて、教室全員に向けて板書しながら知識を講義する仕事は、いりません。
2020年からは大学入試も変わっていきます。この大学入試や、その先の社会に対応するための新しい教育観に基づく教育の柱は、グローバル教育、正解のない問いに主体的・協働的にとりくんでいくアクティブ・ラーニング、ICT教育などです。
国境を超えて参加できるオンライン学習、日常的に英語を使うコンピューター言語、仲間とのコミュニケーションに支えられるSNSを併設する学習、こちらの入力の内容に対してコメントするキャラクターと学習を進める対話型の学習、オンラインの仮想空間で学びつながる体験、プログラミングの知識習得、生徒の主体的な参加・・・こうしてみると、ここには、新しい教育に必要とされる要素が組み込まれていることに気づかされます。
無機質なモノであるはずの機械やコンピューターが、このような授業を展開する・・・そんな時代になってきました。
ライフイズテックは、この15日と16日に英国ロンドンで開催されていたEdTech の祭典「EdTechXEurope(エドテック・エックス・ヨーロッパ) 2016」のメインイベントともいえるグローバル・オールスターズ・アワード・グロース部門で、世界200社のなかからファイナリストに選ばれていました。(※追記:みごと優勝したそうです!)ITによって社会が発展し生活が便利に快適になっている今、これを創り提供できる側の人間になれば自分の力で人や社会のためにできることの可能性が広がる社会だということを、ライフイズテックは、自らが体現し、生徒たちにも体感させながらその道への教育を進めているように見えます。
「MOZER」は、実は、あの『進撃の巨人』(作・諫山創氏)とのコラボレーションが決定しているとのこと。詳しい発表はまだ先とのことですが、ますます子どもたちは、ひきつけられていきそうです。
子どもたちの新しい学び、プログラミング。世界を変えるITの力。そこに夢を託す人たち。受け取り自らも参加していく子どもたち。今、大人はどうしていったらいいでしょうか。子どもには、何をさせ、何を意識して暮らし、育てていったらいいでしょうか。今まで、私は、ある種のITにまつわる教育の話に触れるとき、教育と社会の最先端の空気感を強く感じることがあると思っていたのですが、この日もそんな感覚を受けました。
教育現場の風景の変化は止まらず、ますます新しくなっていきそうです。
この体験版は、毎週水曜日に4回にわたり、段階を追って配信。「物語のそこかしこに《謎解き》も仕掛けられており、謎を解き明かした際のクライマックス演出はかなり楽しんでもらえると思います」(橋本氏)。中高生にとらわれず、小学生も大人も参加OKとのこと。正式版は2016年内にスタート、1コース月額1,500円〜とお小遣いでも参加できる価格の予定です。
(本記事の情報は、公開当時のものです。)