“発達障害”当事者による自伝風小説|『COCORA 自閉症を生きた少女 』

「空気を読む」ことが苦手。ものごとへの強いこだわり。未来を予測できない。感覚が過敏。・・・近年、これらは、発達障がいの症状の一部として、広く知られるようになってきました。しかし、それが本人にとってはどのような状態なのか、その感覚を具体的に「理解」している人はどのくらいいるでしょうか。

当事者である著者の「壮絶な体験」

このさまざまで些細な人との“ずれ”が積み重なり、私と世界の間に、いつの間にか大きな溝として横たわっていた。

これは、2016年1月26日(木)に発行されたばかりの、『COCORA 自閉症を生きた少女 1 小学校 篇』(発行:株式会社講談社。以後、講談社)の前書きにある1文です。もしかしたら、このような「溝」が、日常のあちこちに、気づかないうちに横たわっているのかもしれません。

講談社によると、この作品は、「自閉症スペクトラム障がいの当事者である著者が、自身の壮絶な体験を描いた作品」。今回は、全3部作のうち1巻(小学校 篇)と2巻(思春期 篇)が同時発売されました。後述のとおり、「ひとりの少女が障がいの先にある何かを掴むために、回り道をしながらも成長し続けていくヒューマニズムを描く」とされるこの作品。少し怖い表紙ですが、気になるテーマだったので、読んでみました。

リアルに表現された物語。彷彿とするもの

物語には、家庭や保育園、学校でのさまざま、この世界そのものに対する主人公独特の感覚や心情が、リアルに描かれていました。また、人が戸惑い、誤解して悲しんだり腹を立てたりしてしまいそうな、主人公による反応や行動も、そこから生じたトラブルや新たな不都合の連鎖も、著者による「解説」と共に伝えられていきます。読者は、主人公の思いと合わせて、この「障がい」にまつわるできごとの真相と実態を目の当たりにし、人それぞれの感覚の違いという現実や、この問題に対する理解の社会全体での欠如を知ることになります。

しかも、この作品にに散りばめられたエピソードは、けして、見知らぬ世界のものではありません。日本社会で育った子どもや、その育ちに関わる大人なら、誰もが身近に感じそうな数々の断片に、主人公独特のものの見方や「壮絶な体験」が降り混ざった風景が描かれているのです。読みながら、特定の出来事や人物、そして、自身の胸にある思いなどが、彷彿とする人も多いと思います。そして、「共感できる部分がまったくない」と言いきれる人も少ないのではないかと感じました。

アンバランスな様子が理解されにくい障がい

発達障がいがあると、特に子どものうちは、人との関係を作ることや、コミュニケーションを成り立たせることが苦手なことが多いと言われます。また、その一方で、優れた能力を発揮する場合もあることが知られており、教育環境はもちろん一般社会全体での理解のもと、適切な環境が用意されることの重要性が、多くの場面で訴えられるようになりました。日本政府による「政府広報オンライン」サイトでも、「発達障害ってなんだろう」(2016年3月28日更新)という特集記事が組まれ、「アンバランスな様子が理解されにくい障害」とされています。次のようにも書かれています。

発達障害は、脳機能の発達が関係する生まれつきの障害です。発達障害がある人は、コミュニケーションや対人関係をつくるのが苦手です。また、その行動や態度は「自分勝手」とか「変わった人」「困った人」と誤解され、敬遠されることも少なくありません。それが、親のしつけや教育の問題ではなく、脳機能の障害によるものだと理解すれば、周囲の人の接し方も変わってくるのではないでしょうか。(政府広報オンライン:発達障害ってなんだろう「理解する」より)

すべての人に、さまざまな気づき

この作品での主人公の個性的なふるまいや意識は、「障がい」からのものだけではなく、幼い頃からの不当な扱いによる体験にも影響を受けたものでもあります。「変わった子」と烙印を押された主人公自身の意識の真実を読めばなおさら、その「ずれ」が理解されないままのむごい扱いに、人は多くを感じることでしょう。講談社も、本書を「自閉症スペクトラム障害の当事者や家族のみならず、親、教師、社会人など、すべての人にさまざまな気づきを与えてくれる作品」とし、発刊にあたって次のように発表しています。

本作『COCORA 自閉症を生きた少女』(以下、本作)は、自閉症スペクトラム障害を抱える著者が教師や同級生からの壮絶ないじめを受けながらも生きてきた軌跡を辿る、自伝風小説です。

幼い頃から「なんだか変わった子」と言われて育ってきた主人公・心良(ここら)が、小学校入学とともに出会ったのは、理不尽な暴力教師でした。それから、彼女にさまざまな過酷な試練が次々と訪れます。

まだ幼い著者が悪意に晒され続ける衝撃的な描写が続きますが、決してその悲惨さがテーマではありません。障害をキーワードに、ひとりの少女が障害の先にある何かを掴むために、回り道をしながらも成長し続けていくヒューマニズムを描くことにその目的があります。

杉山登志郎さんや、中村うさぎさんから評価

この作品に対して、『発達障害の子どもたち』などの著者を持ち、児童精神医学の第一人者とされる杉山登志郎さんは、

発達障害と精神的虐待がもたらす多重で複雑な内奥を世界で初めて開示した作品

と高く評価しています。

『COCORA 自閉症を生きた少女 2 思春期 篇』の帯。発達障がいについての著書などがあり、児童精神医学の第一人者と言われる杉山登志郎さんの言葉が。

 

また、作家の中村うさぎさんからも、第1巻の帯に、次のような切実な共感の言葉が寄せられています。

激しい痛みを感じながら夢中で読んだ。アスペルガーという難しい障碍を抱え、イジメや差別、拒絶、侮蔑を浴びながら著者は必死で生きる。誰か愛して、理解して、と叫びながら。ああ、この叫びは知ってる。かつて私もそう叫んだ人間だから。

「溝」があるなら・・・

この作品は、文学作品に位置づけられるものだと思いますが、これまでよく理解されてこなかったものを描いているという意味でも、一読の価値があるように思います。家庭や教育機関など子どもが育つ現場や、社会のあちこちに、理解がたりなくて生じている「みぞ」があれば、気づくことができるかもしれません。

ただ、デリケートでシリアスな問題なので、場合によっては、読むことが辛く感じる場合もあるかもしれません。このような問題は、それぞれの人が、それぞれのペースで、それぞれの気づきを大事にしながら、「知る」ことや「理解する」ことで助けられるもの・変えられるものを考えられたらいいのだと思います。また、個人だけでなく社会からの視点で、「溝」によって生まれた苦しみを埋めあうサポートに関わり会えるといいようにも思います。

キャンペーン中は、電子書籍版無料(※)

2017年2月9日までは刊行記念キャンペーンとして、電子書籍版が無料だそうです!

※刊行記念キャンペーン

期間:2017年1月27日の配信開始日より2月9日(木)まで

『COCORA 自閉症を生きた少女 1 小学校 篇』電子書籍版を無料配信!!
 ※一部書店を除く

『COCORA 自閉症を生きた少女 1 小学校 篇』

『COCORA 自閉症を生きた少女 2 思春期 篇』

 【著者】天咲心良(アマサキココラ) 昭和生まれ。幼い頃から「変わった子」と言われて育つ。大人になり高機能広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害)と診断される。診断後、本の執筆を思いつくが、長らく書くことはなく、その後長期の体調不良に陥ったことをきっかけに、「自分の人生の意義を知りたい」と執筆を開始。好きな花はアザミ。

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