アクティブラーニング時代  “お金”の教育はどうする?|「18歳からのマネーフォワード」(聖徳学園中学・高等学校)

昨年は、普通公職選挙法の改正をうけ、満18歳以上が選挙に参加する時代が始まりました。法的に責任能力があるとみなされる、18歳という年齢。この年齢を前にした高校2年生対象に、お金についての情報を伝える学習プログラムを導入した学校があります。

「お金」というテーマ。授業の進行。生徒のみなさんの様子。見せていただいた授業には、時代を先取りする教育のヒントがたくさんあるように思いました。

「お金ってなんだろう?」

「お金とは何か」と問われたときに、すぐに答えられる人は、どのくらいいるでしょうか。また、なんと答えたらいいでしょう。

学校法人聖徳学院 聖徳学園中学・高等学校(東京都武蔵野市。以下「聖徳学園」)は、株式会社マネーフォワード(以下、マネーフォワード)の協力で、高校2年生にお金に関する学習プログラムを開始11月の公開授業では、この「お金って何だろう」という問いが投げかけられるところからスタートしていました。

 

「社会人になった時のための、情報や備え方を」(マネーフォワード)

この授業は、学生に向けたお金のリテラシー向上プロジェクト「18歳からのマネーフォワード」。協力するマネーフォワードは、「家計簿アプリ」として知られる個人向けの自動家計簿・資産管理サービス「マネーフォワード」やビジネス向けクラウドサービス「MFクラウドシリーズなど、お金に関するプラットフォームを開発・提供する企業です。

日本経済を担う若年世代が未来を切り開いていく上で、「お金」との付き合い方はとても大切なテーマです。しかしながら、日本の教育の現場において、貯蓄、資産管理、投資、クレジットカード利用、保険など、お金に関して実践的に学習する機会や場は少ないのが現状です。

と訴える同社は、若年世代へ向けた、課題解決手段の提供や情報発信などに課題を感じていたとのこと。

10代の学生が社会人になった時に「漠然としたお金に対する不安」を持つことがないよう、必要になる情報や備え方などについてお伝えすることで、お金についての理解を促したい

と考え、「社会環境の変化と人生において起こるであろう変化を踏まえ、時代にあったお金との付き合い方をお伝えする」ために、「18歳からのマネーフォワード」を開発したそうです。その第一弾として、聖徳学園の高校2年生に向けた授業が実施されることになりました。

 

「真に世界で活躍できる人材を育てるために」(聖徳学園)

一方、聖徳学園は、「生徒の脳を活性化」するという学園独自の知能開発プログラムなどや、中学入学から高校卒業までの間の学力の伸びが大きいなどの特色でも知られている学校で、「個性」「創造性」「国際性」を教育方針としています。

今回、「18歳からのマネーフォワード」を実施するにあたり、校長の伊藤正徳氏からは次のようなメッセージが出されました。

「お金」に関する実践的な知識を学ぶことで不安をなくし、より人生の選択肢を増やしていってほしいという想いと、真に世界で活躍できる人材を育てていくという聖徳学園の方針が合致し、実施に至りました。

 「自分たちにも耳の痛い話を」(マネーフォワード)

お金についての学びは、これまで各家庭がそれぞれの価値観などに基づいて、子どもたちに施してきたものでした。しかし、この時代にお金をどう扱っていくかというのは、大人自身も迷うところですし、子どもたちにその教育までをする余裕がないという家庭もあるといいます。子どもたちが、今の時代のマネーリテラシーを高校時代に学んでおくことは、ITや情報のリテラシーを学んでおくことと同じぐらい大切なことかもしれません。

公開授業(2016年11月24日実施)の講師をつとめた、マネーフォワード取締役でFintech研究所長の瀧 俊雄氏は、責任が発生する18歳という年齢を向かえる世代に、「自分たちにも耳が痛い話をしようと考えた」とのこと。そうお聞きして、実社会で個人のお金管理をサポートする「マネーフォワード」を提供している同社ならではの、目線や想いを感じました。

「考える機会やきっかけを提供」(聖徳学園)

伊藤校長も、「客観的な視点を持つ人からの授業によって、お金の問題を考えるきっかけや機会を提供したい」とし、「教科書の授業は過去のことを学ぶが、この授業は未来から考える。そこが決定的に違う」と、語ってくださいました。お聞きして、生きた知識を学ぶ学習の大事さと、「考える」ことを大切にする同校の学びのスタイルを考えました。

講師の瀧氏も「インタラクティブ(双方向的)な授業を日頃から実践してきた学校だから、生徒さんたちの反応もよい」と評していましたが、生徒のみなさんは、本当に、グループで考えることを促されると、すっとグループに別れて元気に話し始めます。出てくる答えもそれぞれ多様で、大人もはっとさせられるような視点や、内容に深みもあることが印象的でした。

 

アクティブ・ラーニングの実現

しかし、伊藤校長は、「日頃から考える機会を与えているので、みな慣れています」とさらりとおっしゃり、同じ日に、たまたまJICA(独立行政法人 国際協力機構)からの授業もあり、「途上国で何ができるか」などの話から「お金」について違った角度から考える機会にもなることなどを、教えてくださいました。

今、日本では、「主体的・対話的な深い学び」とも言われる「アクティブ・ラーニング」が文部科学省のすすめる教育改革の鍵とされ、一斉授業の形で知識を教え込むだけの教育が、終わろうとしています。同校の「真に世界で活躍できる人材」を考える視点は日本の教育改革の視点そのものです。同校が見据えるものは日本の教育改革にとらわれきらないものかもしれませんが、改革に戸惑う教育現場も多い中、同校でアクティブ・ラーニングが先駆けて行われているのは、事実であるように思いました。

「お金があれば愛以外は・・・」「ときには命より・・・」

授業初頭の「お金ってなんだろう?」という問いの正解は、ひとつではありません。このような問いを立て、課題を見つけ解決していくのがこれからの時代に必要な力で、それを育む教育への転換が教育改革のめざすところとされています。

この授業で、各グループのみなさんがシェアしていた答えを、並べてみます。

お金ってなんだろう?

「ものの価値を表すもの」

「ものとものの交換手段」

「価値の代用品」

「人類が作った、最大の概念」

「お金があれば愛以外は全部買えると思います」

「物の価値とか人の努力とか目にみえないものを形として表したもの」

「生きていくのに必ず必要なもので、場合よっては命より価値のあるもの」

「物の価値の基準」

「ものを買ったりする時に必要なもの」

新しい時代のための授業

この授業では、ほかにも、お金のしくみや、平均的な生活、お金を借りるということ、家計簿、18歳になったらできることなど現実的なお金の問題や、お金と夢や幸せとの関係など倫理的なテーマまで扱われていました。

また、年代別のお金の問題を確認する場面では、Googleでの検索画面を見せるなど社会の実状を、講師の案内でありのままで見る形が印象的でしたし、生徒のみなさんも飽きることなく集中し、パソコンなどデジタル機器が自然に駆使されるスタイルにも、テンポの良さや、実社会での講座やプレゼンテーションとの近さを感じました。

今後、企業との連携や、アクティブラーニング、ICTを活用した授業というものも、こうして当たり前になっていくのかもしれません。また、これからの時代に合った「お金についての教育」というのも、考える必要があるテーマのひとつではないでしょうか。

 

(本記事の情報は、公開当時のものです。)

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